ほんと、バカみたいだ。

3/6
1人が本棚に入れています
本棚に追加
/6ページ
「最近暑くて眠れなくてさ、睡眠不足なんだよね」 「ふぅん」 岩瀬の睡眠事情にはこれっぽっちも興味がわかなかったので、特に話題を広げる気はなかった。適当に相槌すると、岩瀬は、また目だけが笑っていない笑顔を私に向けた。 「なに?」 私は彼の作り物の笑顔を睨みつけた。しばらくして、岩瀬は口を開いた。 「……早川が羨ましいな」 ぼそりと岩瀬は言った。それまで意思を感じられなかった彼の目に、微かな変化が見られた。 「え?」 思わず聞き返す。 すると岩瀬はまたいつも通りの、作ったような偽物の笑顔を浮かべていた。 そして、私の顔を覗くように体を屈めると、岩瀬は言った。 「ねぇ、もうどうせ遅刻だしさ、二人で学校さぼらない?」 ほんの一瞬思考が止まったが、咄嗟に私は答えた。 「やだ」 すると突然、岩瀬は口元を押さえて吹き出した。 「は?」 目の前で、岩瀬はおかしそうに肩を揺らして笑っていた。一体岩瀬はどうしてしまったんだろう?いつも教室で見る作り物のような笑顔ではなかった。……こんな岩瀬の顔は初めて見た。思わず、その顔をまじまじと見つめてしまった。前かがみになって笑っていた岩瀬は、私を上目遣いに見上げた。 「ホント早川は……羨ましいよ」 「は?喧嘩売ってる?」 睨みつけると、岩瀬は「ごめん」と呟いた。そして、ふぅと息を吐くと岩瀬は急に真面目な顔をした。岩瀬の大きな瞳がまっすぐに私を見つめていた。 「な、なに?」 岩瀬のその顔を見て私はどうしていいかわからず、思わず後ずさりした。岩瀬は一度目を伏せてから、再び私を真っ直ぐ見て言った。 「ねぇ早川、俺を……」 キーンコーンカーンコーン。 岩瀬の言葉をかき消すようにチャイムが鳴り響いた。 校舎の奥のほうからは、椅子を引く音や、生徒の話し声が聞こえてくる。 「一時間目終わったよ」 私がそう言うと、岩瀬は何も言わず俯いた。岩瀬が瞬きすると、その長い睫毛が、微かに揺れた。 今日の岩瀬は、やっぱりどこかおかしい。 しばらくその様子を見ていると、岩瀬はゆっくりと顔を上げた。 その顔には、作り物のような笑顔が張り付いていた。 「そうだね、行こうか、教室」 岩瀬はそう言って歩きだした。私も彼の後を追った。 image=510745997.jpg
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!