ほんと、バカみたいだ。

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「早川」 背中のほうから岩瀬の声がした。 私は階段を登る足を止めた。 「やっぱ、さっきの、なんでもないから」 私は振り返らずにそう答えて、再び階段を登り始めた。 「え、早川、ちょっと待って」 引きとめる岩瀬の声を、私は無視した。 なぜなら、背中に刺さるような視線を感じていたからだ。 振り返らなくてもわかる。 たぶん、マイとかいう女が、今、私のことをすごい顔して睨んでいるんだろう。 階段を登りきった私は、教室を目指して早足で歩き始めた。 しばらく歩くと、階段のほうから、あの不愉快な女の声が聞こえてきた。 「ね、岩瀬、さっきリカとも話してたんだけどさぁ、今日もどこか遊びにいかない?」 「あ、うん。いいよ別に」 あぁ、バカみたい。岩瀬も、あの女も……私も。 ホント、バカみたいだ。 その時、頬の上を汗が滑り落ちるのがわかった。 ハンカチを出すのも面倒だった私は、手の甲でそれを拭った。 ふと立ち止まって、顔を上げると、窓の外には大きな入道雲が浮かんでいた。 『ねぇ早川、俺を……』 あの時、岩瀬は私に何を言おうとしたんだろう?
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