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Cela vient soudainement.01
その日、フレデリックは目を覚ました瞬間に硬直した。
この世に生まれてあと数年で半世紀。何時如何なる時でも取り乱すことなどないと自負しているフレデリックではあるが、さすがに目の前に自身の見慣れた金色の頭を見れば動揺を隠せずにはいられなかった。
「C'est pas vrai…」
フレデリックにしては珍しく、有り得ないと呟いたのも致し方のない事だ。
ともあれ一度目を閉じて再び目蓋を開いてみても何ら変わりのない状況に、フレデリックは困ったように眉根を寄せた。
――参ったな…。
自身の身に有り得ない事象が起こっている事だけは辛うじて理解できる。そっと抜き出した左手を目の前に翳してみれば、薬指にブラックゴールドのリングがしっかりと嵌まっているのだから手に負えない。
つまりは胸の上に乗った金色の頭…もといフレデリックの躰の中には、辰巳一意が入り込んでいるのだろうか。
それ以外には考えられなかった。…というより、辰巳以外の他人に躰を乗っ取られるなど考えたくもない。
ともあれフレデリックひとりで解決出来る問題でない事だけは確かだ。
「ねえ辰巳、ちょっと起きて」
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