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「僕に聞かれても困る。だいたいこういう場合、入れ替わってしまった時と同じ状況になれば戻るというのがセオリーだと思うけれど、そもそも僕たちは寝ていただけで何か特別な事をしたわけじゃない。どうしたら戻れるかなんて皆目見当もつかないね」
お手上げだとフレデリックが肩を竦めた瞬間、微かな羽音が聞こえて二人の視線はサイドテーブルに吸い寄せられた。音の出所は、フレデリックのスマートフォンだ。二人が思わず顔を見合わせた事は言うまでもない。
液晶に表示された発信者は、クリストファーだった。フレデリックの、血の繋がらない同い年の弟である。
「クリスか…。まったくタイミングの悪い…」
忌々し気に吐き捨てるフレデリックを横目に、辰巳は電話を奪い取った。
「ちょっと辰巳…!」
フレデリックが制止する間もなく、辰巳は勝手にクリストファーからの電話を受けてしまう。フレデリックにとっての救いは、音声がスピーカーに設定されて相手の声が聞こえることくらいだろうか。
「やあクリス」
辰巳が発したとは思えないほど穏やかな口調。だが、電話の向こうから返ってきたのは奇妙な沈黙だった。
明らかにいたたまれない空気が流れ、辰巳がフレデリックを見る。
「何かおかしかったか?」
「ふふっ。キミは僕の真似をしてくれたんだろうけど、重大な事を忘れているね、辰巳」
「ああ?」
「僕は、クリスを相手に日本語では話さない」
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