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にっこりと微笑む黒髪のフレデリックに、辰巳はガシガシと金色の頭を掻いた。言われてみればその通りである。
「やあクリス。聞こえているかい?」
『いったい何の茶番だ?』
「残念だけど、これはお芝居じゃない。聞いたままの事が僕と辰巳の身に起こってる」
『信じられると思うか?』
「信じる信じないはキミの自由だよ、クリス」
クスクスとフレデリックが低い笑いを零せば、回線の向こうから考えるような気配が伝わってくる。
『OK. フレッドは別として、辰巳がそこまでお前の真似事を続けてられるとも思えない。信じよう』
「あぁん? てめぇそりゃどういう意味だコラ」
『そのままの意味だろう。しかしお前、その声だと迫力も何もないな』
「好きでなってんじゃねぇんだよクソが」
噛みつく辰巳に苦笑を漏らし、フレデリックはクリストファーへと要件を尋ねた。
『ああ。例の件なんだが…、その様子じゃ無理そうか?』
「いや、むしろ歓迎だよクリス」
フレデリックの表の仕事は、航海士の知識がないと務まらない。むしろ本業の方が辰巳の仕事にもまだ近しいものがあると、フレデリックがそう言えばクリストファーはあっさりと納得した。
『なるほど。なら話は早い、今週中には頼む』
「分かったよ」
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