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雑事を嫌う辰巳が動く事など皆無。当然、一切動かなかった辰巳はどこに居ても椅子にふんぞり返っているか煙草を吸っているかのどちらかだった。フレデリックの顔で。
「僕だって僕の顔をして横柄な態度をとられるのは良い気分とはいえないよ」
「はぁー…、いったい何時になったら戻れんだ?」
再び手を動かし始めたフレデリックの黒い頭を眺め、辰巳は溜息を吐いた。どうにか誤魔化せるだろうと楽観するには、二人の性格も口調も、行動原理までもが違い過ぎている。さすがの辰巳もお手上げといったところだろうか。いざこうして細々と動く自分を見ていると複雑な心境を抱いてしまう。
フレデリックの方はと言えば、辰巳に優雅な立ち居振る舞いなど望めないという事を早々に理解し、呑み込み、強引に納得して今に至る。時折チクリと嫌味を言うのは、たいていは辰巳が文句を言うせいだ。
ともあれ手早く荷解きを済ませたフレデリックは、部屋に備え付けのキッチンへと向かった。フンフンと鼻歌を歌いながらフレデリックが開けた冷蔵庫には、頼んでおいたホールケーキがひとつ、主に食される時を待っていた。
だがしかし、ケーキを片手にメインルームのソファへと移動したフレデリックに、辰巳の制止が掛かったことは言うまでもない。
「ちょっと待てコラ。俺の躰でそんなに糖分摂取するんじゃねぇよ。太ったら面倒だろぅが」
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