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「あれだけお酒を飲んでも太らないんだから大丈夫だよ」
「アルコールと砂糖を一緒にすんじゃねぇ」
ベッドを抜け出し、あっさりとケーキを取り上げる辰巳にフレデリックの悲壮感漂う悲鳴が部屋に響く。が、その顔は頬に向こう傷がある男なのだから滑稽で仕方がない。否、辰巳自身にとってはこれ以上なく気持ち悪い。
「俺のツラでケーキなんぞに縋るんじゃねぇ。気色悪ぃだろぅが」
「辰巳こそ僕の顔で眉間に皺を寄せないでくれるかな! 美貌が台無しだよ!!」
二人の間に不穏な空気が流れ、しばしの間睨み合う。だが、その沈黙はあっさりと破られた。
ケーキをテーブルの上に戻した辰巳は、どさりとフレデリックの隣へと沈み込んだ。
「ったく、勘弁しろよ阿呆くせぇ」
「ふふっ。コーヒーを淹れてくるよ。キミも、少しなら一緒に食べてくれるだろう?」
「ああ」
キッチンへと戻るフレデリックの後ろ姿を見遣り、辰巳は煙草へと火を点けた。別段自分自身の外見に不満などないが、こう四六時中自分の顔を見ているというのも奇妙なものだ。自分をこうして外から眺める行為は、思ったよりも神経を疲弊させるのだと初めて知った辰巳である。
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