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が、しかし。それ以上に辰巳を苦しめたのは他でもないフレデリックだった。再びソファへと戻ったフレデリックに遠慮もなく緩んだ顔でケーキを頬張られるのは拷問以外の何物でもない。
そう、いくらフレデリックを愛していようとも。
「勘弁しろよフレッド…」
「うん?」
「締りのねぇツラすんな」
「辰巳がもう少し穏やかな顔をしてくれるなら、僕も考えてあげるよ」
さらりと受け流し、ケーキを差し出してくるフレデリックを辰巳はまじまじと見つめる。
「駄目だ…。慣れねぇ」
「僕は僕に見つめられるのも悪くないけどなぁ」
「そりゃあお前はそうだろうよ…」
うっとりと手を伸ばしてくるフレデリックを、辰巳は額に手を遣って項垂れながら受け入れた。
ティータイムが終わり、ゆったりと部屋のソファでくつろいでいた辰巳がふと違和感に気付いたのは、フレデリックが席を立ってから十分以上が経過したのちの事である。
風呂の用意をしに行ったきり、フレデリックがいつまでも戻ってこない。訝しんだ辰巳は立ちあがり、脱衣場に入ったところで硬直した。
洗面台の大きな鏡を、フレデリックがひとり覗き込んでいる。
「何してんだお前」
「いつ見ても辰巳の躰はセクシーだなぁ…と」
「……殺されてぇのか?」
辰巳がどれほど低く唸るような声を出そうとも、フレデリックの声では些か迫力に欠けた。鏡の前で、フレデリックが自らの顔をそっと撫でる。
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