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「あははー! 待て待てー!」
夕日の射す河原に子供の無邪気な声が響く。
それは決して郷愁を感じるような柔らかなものではない。
私は背の高いすすきの中を必死に走っていた。
「向こうに逃げたぞ!」
「待てよ!」
誰が待つものか。
金色の毛は緑の絨毯の中でも目立つのか、人間の子供たちはおもちゃの銃を撃ちながら追って来る。
いったい、私が何をしたと言うのだろう。
人間に見つからないように、川辺で休憩していたところを、彼らに見つかったのが運の尽きだった。
まだ生まれて二年の小さな体では、脅かして逃げることもできない。
だから、私は体力の続く限り逃げてやろうとしていた。
「全然当たらねえぞ!」
「へたくそ!」
顔の傍を、小石のようなカラフルな球がかすめていく。
なんということをするんだ。目に当たったら潰れていたぞ。
苛立ちからそれを撃った人間の方を見た一瞬の隙に、私の体は蹴り上げられた。
息が詰まって、倒れ込んだ私を、人間の子供はつまみあげた。
「狐の癖に逃げようなんて生意気なんだよ!」
「おいそいつそこに置いて的にしようぜ」
「いいね、おら、動け」
乱暴に河原の広場に投げつけられ、私は土煙にまみれて転がった。
今は、怒りよりも逃げ出したい気持ちでいっぱいだ。
骨は折れていないようだが、右の前足が引きつったように痛む。
こんなことなら、集落のみんなの言うことをもっと聞いておけばよかった。
――――死にたくない。
そう思った、その時だ。
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