第二章 調査開始

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破裂しそうなほどに鳴る心臓の音が総悟さんに聞こえていないことを祈りながら、私はこげ茶色の木の扉を開いた。 室内の空気が流れ出て、コーヒーの香りが鼻を撫でる。 席に着いて、メニュー表を眺めた。 ナポリタンやオムライスなど、普通の喫茶店と変わらないメニューが並ぶなか、最後の方に謎の料理が載っている。 「ミタマって何?」 「魂、ですかね?」 「え?」 「いえ、何でもないです」 おそらく、人間の食べ物に我慢できなくなった妖怪が頼むものだ。 私たちは雑食だから困ったことは特にないけど、一部の種族は食べられるものが少なくて大変だと聞いたことがある。 私はオムライスを、総悟さんは日替わりランチを注文した。 朝からずっと神隠しのことを考えていた私は、そこでふと、総悟さんとふたりきりでお昼ごはんを食べようとしているこの状況を、俯瞰して認識した。 この状況、デートと言えなくもない。 いや、これをデートと言わなかったら、いったい何がデートなのだろう。 そう思った途端、顔が火照って赤くなっていくのを感じた。 ちょうどよかったはずの店内の温度が、やけに暑い。 「どうかした?」 「な、なんでもないです! ちょっと、暑くて!」 総悟さんに顔を覗きこまれて、あわててそっぽを向いた。 心の中で数を数えて、気持ちを落ち着ける。 しかし、そんな自分の意思に反して、オムライスを口にしても味がしなかった。
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