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「何やってんだ!」
少し離れたところから、大きな声がした。
「なんだこいつ!?」
私を狙う人間の子供たちに、別の子供が体当たりをしていた。
彼は、悪童らを怯ませると、私の元に走り寄って、私を守るようにして覆いかぶさった。
「てめえ!」
「ふざけんな!」
彼は身を硬くして、外の暴力に必死に耐えている。
声も出さず、ただじっと私を守ってくれている。
どれくらい続いたかわからないけど、外のやつらも疲れたのか、いつの間にか何の物音もしなくなった。
彼がゆっくりと顔をあげ、そこから光が射し込む。
「……大丈夫だった?」
彼の眼鏡は片方のレンズがなくなっていた。
額からは血が出ていて、私よりもよっぽどひどい怪我を負っていた。
「足、怪我してるね。ちょっと待って」
彼はポケットから水色のチェック柄のハンカチを出して、川の水で濡らすと、私の傷を丁寧に拭く。
痛みに少し唸ると、彼は慌てて手を離した。
「ご、ごめん! 痛いよね?」
彼はもう一度ハンカチを絞ると、今度は傷を覆うようにして、私の足に結んだ。
野生の獣にこういう手当ては必要ないのだけど、私は仲間の暴力に逆らってまで私を助けた彼に敬意を表すために、黙ってその手当てを受けていた。
「これでよし、と。もうダメだよ、こんなところにきちゃ。あいつらいっつもここにいるんだ。子猫とか子犬とかをどこからか拾ってきて、的にして遊んでる。最低な奴らさ」
彼はそこまで言って、動物に話しかけても仕方がないかと思ったのか、気恥ずかしそうな顔をして、土と足跡とに塗れたボロボロの背中を向けて去って行く。
私はその姿に釘づけになって、しばらくその場から動けなかった。
私は彼に、ひとめぼれしてしまったのだ。
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