第三章 すぐ近くに

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「ああ、ごめんね。本当は笑いたくないんだけど」 「先輩! 性格悪いですよ!」 「よく言われるわ。ええと、なんだっけ。新山と仲が良かった人、だよね。私の知ってる中だと桑村かな。桑村克洋」 彼女は思い出しながら話すように、指をふよふよと動かす。 「中学だと野球部に入ってたから、今もそうだと思う。大会でも大活躍してるエースだったの。中学の途中までかな、新山とはよく話していた記憶があるんだけど、夏休みが明けたくらいから急によそよそしくなって……。喧嘩したのか、野球がうまくいかなくなったのか、私は知らないけど、たしか、そんな感じ」 「桑村先輩は、どういう人なんですか?」 「絵に描いたような明るい人気者だね。いつも人に囲まれてて、誰にでも優しくて。野球部だったからかな、爽やかな人だよ」 なるほど、人柄はだいたいわかった。 しかし、本当に知りたいのはそこではない。 「何か噂とかってありませんか?」 「噂って? たとえば?」 「急に人が変わったとか、何か大きな変化はありませんでしたか?」 私の質問に、先輩はすぐには思い当たらないようで、頭を抱えて唸った。 「……ごめん、わからない。何かあったの?」 「いえ、ただ、詳しく知りたかっただけです。ありがとうございました」 「直接会うんだったら、人の少ない帰りにした方がいいよ。人気者って、それだけで人の目に晒されてて、今みたいにあなたが会いに行くと、必要以上に目立ちそうだから」 「ご忠告感謝します」 たしかに、そこまでは深く考えていなかった。
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