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第三章 すぐ近くに
朝、学校に着いて、私は葵ちゃんと一緒に正門のところで待っていた。
今日の目的は総悟さんじゃない。
早めの時間であることもあり、まだたくさんの人は登校してきていない。
ちらほらと歩いてくる学生たちの中に、目的の人を見かけ、私は駆け寄った。
「あの、すみません!」
その女生徒は、私の方を見て驚いた顔をする。
「あの時の……」
それは、あの時私をトイレに押し込めた人のうちのひとり、総悟さんとずっと同じクラスだったと言っていた人だ。
「おはようございます、先輩。少しお話できますか?」
「いいけど、ちょっと待って」
彼女は周囲にいた友達に事情を説明して別れた。
学生たちの波から外れ、校舎の裏へと向かう。
「はい、お待たせ。どうしたの?」
彼女は優しく微笑み、土方美里、と名乗った。
今も総悟さんとは同じクラスらしい。
「美里、でいいよ。あんまり、土方って名字好きじゃないし」
「わかりました。美里先輩、あの、総悟さんのことで聞きたいことがあります」
彼女の瞳が、大きくなる。
その質問は予想していたのだろう。
「何を聞きたいの?」
「総悟さんの友達について、教えてほしいのです」
「それって、消えた友達のこと?」
「いえ、総悟さんと仲が良かった人のことです」
美里先輩は首をかしげた。
「うん? 本人に聞けばいいんじゃないの?」
「あっ、えっと、それは……」
私が言葉に詰まると、葵ちゃんが言う。
「本人には聞かれたくないことだってあるんですよ。世良は、新山先輩のことが好きなんです」
「え、ちょっと、葵ちゃん!?」
慌てる私を見て、美里先輩が笑った。
「あははは! そういうこと! 鈍くてごめんね!」
「いや、あの、そういうことじゃなくて! ちがう、そういうことなんだけど、今聞いてるのは……!」
わたわたと言い訳している様子を、美里先輩はひとしきり声をあげて笑った。
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