ダンさん

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 伍代さんは思いつく限り、同級生の名前を言った。  しかし、悠人くんは「ちがう」と小さい声で言いながら、否定した。  まだ習い事もさせていないから、ほかの小学校に通う友達がいる、という確率は低いだろうと思い込んでいた伍代さんは、悠人くんの答えに、予想を外されて困ってしまった。 「ねえ悠人、じゃあ、ママの知らないお友達がいるの?」  思い切って訊いてみたが、悠人くんは唇をかみしめて答えない。 「ママね、その子に会ってみたいんだ。悠人と仲良くしてくれてありがとう、お礼に、おやつを食べに来てほしいって。ママ、おいしそうにおやつを食べてくれる悠人の顔を見るのが、すごくうれしいの。だから、お友達のお名前、教えてくれるかな?」  かんで含めるように、伍代さんは優しく、悠人くんに諭した。  すると、悠人くんはちいさな声で「・・・・・・さん」と、ぼそぼそ答えた。 「ん?だあれ?」  伍代さんが聞き取れず、もう一度問うと悠人くんは「ダンさん」と答えた。  そして、激しく咳き込むと「げぇっ」という低い音のゲップとともに、胃の中のものをぜんぶ、はき出してしまった。 「慌てて抱えて、病院へ連れて行きました。その場で緊急入院することになり、手続きや着替え、家の片付けと慌ただしくなりました」  悠人くんは、熱と脱水症状を抗生物質や点滴でやわらげながら、治療することになった。 「いちおう、先生に悠人が吐いてしまったものをビニール袋に入れてお見せし、調べてもらいました」  結果、悠人くんは「動物性タンパク質」を、生焼けで食べてしまったことによる食中毒と判明した。 「吐いたもののなかに、黒い羽根のようなものと、くちばしや爪のかけらみたいなものが、混ざっていたそうです。スーパーで売っている鶏肉や、焼き鳥には、そんなものはないし、いったいどこで口にしたのか、わからないまま悠人に付き添いました」  熱と、腹痛に苦しむ悠人くんの手を握りながら、伍代さんは「ダンさん」という名前が引っかかっていた。
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