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 薄暗い部屋の中で、叔母さんは突然こういった。  ――あんたが悪いんだよ。  私はその言葉を耳にして顔を上げた時には、刃物がこちらに向けられていた。私は瞬時に、危険を察知して叔母さんから距離をとったが、思った以上に叔母さんの動きは俊敏で、距離はどんどんと詰められた。  なんで、どうしてと叫ぶ私に対して、叔母さんはあんたが来てからあの人は帰るのが遅くなり、私は病気になったのよと叫ぶようにしていった。  叔母さんは私の胸元に刃物を向けてくるのをどうにか抵抗した。拮抗していた力を私が抜くと、その反動で叔母さんは床に倒れ、私が馬乗りする形になった。  その時だった。ずっと静かであった心の声が再び聞こえた。  ――今だ、やれ。  無我夢中に叔母さんが握っていた刃物を強引に奪い取り、私はそれを右手に握り、力いっぱいに押し出した。妙な柔らかな感触があった後に、生暖かい液体が手に降り注いだ。  心臓が高鳴っていた。混乱も動揺もしていない。あったのは、高揚感だった。私の中に眠る潜在的なそれがついに表出したのだ。心地よい感覚が頭全体に広がっていき、私は叔母さんに重なるようにして倒れた。  次に目覚めた時に、私は叔父さんに医師になることを告げ、それからはもう狂ったように勉学に励んだ。  もう、ここまで言ってしまえば、私の本質に気がつかれた方もいるだろう。私は抗ってはきたのだ。そういった思考は間違っていると、何度も正そうともした。それでも、私は叔母さんを刺したあの感触だけは忘れられなかった。
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