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 これが読まれているということはおそらく、私は死んだということなのだろう。そして、私を知る者たちは、なぜ私が死んだのかと頭をかしげていることだろう    私は世間一般的には幸せ者だったと思う。妻や七歳になる息子もいた。職業は医者という大変な業務ではあったが、それ以上にやりがいも感じていた。    恵まれていたはずなのだ。そう、何度も頭の中で繰り返しても、それがまるで嘘っぱちのように感じてしまい、大事なものがぽとりぽとりと落ちてしまう感覚が離れなかった。    妻は私の死を恨んでいるだろうか。それとも、どうしてと悔やんでいるだろうか。きみと過ごした時間はとても楽しかったし、安らぎを私に与えてくれた。でも、私の心の奥にある黒々としたそれまでは癒してくれなかった。いやいや、きみが悪いわけではない。私が弱かっただけなのだ。許してくれとは言わないが、どうか私を忘れてきみらしい人生を送って欲しい。    息子には本当に申し訳ないことをしてしまったと悔やんでいる。でも、こうするしかなかったんだ。私は息子を愛している。愛しているからこそ、私は死を選んだのだ。これ読んでいるあなたは意味がわからないかもしれないが、今はそれで良い。時期に分かる時が訪れるかも知れないし、一生訪れず生涯を終えるかもしれない。それでも、私が死を選んだことには違いなのだから。    といっても、息子が何か悪かったわけではないことだけは伝えておきたい。むしろ、私が死を目の前にした時に、息子の顔を思い出して、何度も躊躇したくらいだ。それほど息子の存在は大きかった。      さて、そろそろ核心に触れていったほうが良いだろう。私とそれとの出会いをここで記していくつもりである。    私とそれとの出会いは、子どもの頃まで遡る。鼻水を垂らしながら、野山を駆け抜けていた頃は、僕にとっても有意義で、こんな生活が一生続けば良いなと思った。けれども、そんな生活は突如として奪われる。私の父と母は殺されたのだ。いや、実際には事故と処理されたから、殺されたという表記には少々違和感を抱くだろうが、許して欲しい。  そして、両親を失った私は養子として父親の兄弟である叔父のところへ行った。その頃に私はそれと出会った。
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