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今も、また聞こえる。
――ほら、我慢せずにやれよと。
わかるだろう。私は普通のふりを精一杯してきたけれども、誰よりも普通ではなかった。
医師である以上、患者やその家族に感謝されることもある。そんな時に、私はああ、医師だったのかと思い出す。
患者を治療と言って、患者の皮膚にメスをいれた瞬間の高揚感はいつまで経っても変わらない。そう、変わらないはずだった。
しかし、最近マンネリ化してきてしまった。どうしてそうなったかって。だって、患者は私を信頼して黙ってされるがままになっているじゃないか。そんなの非常につまらない。もっと苦しんで、もっと叫んで、助けを乞うてもらわなければ困る。
最近では、我慢ができなくなってきていたのだ。
もし、妻や息子にそれを向けたらどうなるだろうかということだけが頭を支配して、私が私としていられなくなってしまった。
わかるかい。この苦しみを。私はずっと心の声に悩まされてきたのだ。だから、私は自らそれに立ち向かうことでこの苦しみを終わりにしようと思ったのだよ。
よかったな。助かって。
また、会える日を楽しみにしているよ。
父より。
<了>
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