イバーダード

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遠く霞む山脈に、緑豊かな領土。 悠然と群れをなして翔び去るのは鳥か、それとも・・・。 「魔法王国、イバーダードですよ」 「イバーダード?」 聞いた事がある名前だった。 「その、シミーヤの国、と言えばお分かりになりますか?」 指された方を振り返れば、後ろからひょこりと首を伸ばしているシンと目が合った。 黒い狼耳をピンと立てて、ゼナフィラの顔を伺っている。 「あの人、オレの上司、この国の参謀閣下だよ」 ゼナフィラの耳にだけ届く声で囁く。 この国の実質No.2は、にっこり微笑んでゼナフィラが事態を飲み込むのを待っていた。 「大丈夫か?何の準備もなく時渡りしたんだけど」 気遣わしげな黒い瞳に、軽く頷いてみせた。 さっき見せた泣きそうな顔は、気のせいだったのだろうか・・・? 「・・・バカだな、明日の朝には戻ったのに。一緒に来ちまうなんて」 その言葉に反応したのはしかし、亜麻色の参謀だった。 「あなたが未熟なせいでしょう?良い機会です。帰っている間に私が特訓しましょう」 「あ、いえ、その・・・え?」 普段は余裕綽々なシンが、ひどく慌てている。 やはり自国というのは違うものなのだろうか。 そんなシンの態度に、参謀はくすりと笑ってゼナフィラを見た。 「突然の事に驚かれているかと思いますが、よろしいでしょうか?」 相変わらず優しい声音だったが、次に何を言われるのかと身構える。 「私(わたくし)、このイバーダードの参謀長官を務めております、ルト・スティア、と申します。ゼナフィラ様におかれましては、我が国の竜騎士シン・シミーヤと契約を交わしていただき、誠に感謝しております」
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