或る魔法使いの話

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むかしむかし、あるところに、ひとりの魔法使いがおりました。 子供のころの魔法使いは、魔法を魔法とも知らず、たくさんの人を救い、傷つけておりました。 ちいさなちいさな魔法使いには、自分のことしか見えていなかったからです。 大人になった魔法使いは、それにようやく気づきました。 たくさんの人を傷つけてきたことをやっと知った魔法使いは、魔法を人のために使おうと、ちいさな診療所を開きました。 そこには怪我をあっという間に治す、すばらしいお医者さんがいると噂が広まり、瞬く間に診療所はお客さんでいっぱいになりました。 魔法使いは、怪我を自分に移し、それから溜まった怪我を一気にりすやねずみなどの小さな動物へと移していたのでした。 ひとの怪我を移された動物は、大きすぎる怪我に耐えられず、だいたいは死んでしまいます。 でも、魔法使いはこどもたちの怪我を治し、動物を殺していきました。 こどもたちが笑顔になるから。 何より動物を殺すことで、自分たちが幸せになれるのだから。 だから、魔法使いは、怪我を移し続けます。
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