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「あなたは、誰ですか」  対ヒューマン用にインプットされていた、敬語プログラムが作動する。  よくよく考えれば、こんな風に音声機能を使ったのも久しぶりかもしれない。少し高いわたしの声。そうか、わたしの性別は女と設定されていたのだ。 「お、お、お前は?」 「マリアです」  そうだ、わたしの名前はマリアだった。  製造番号でも商品名でもないわたしの名前。いつ誰がどのようにつけたのだっけ──その記憶データは、あやふやだ。  目の前の男はまだ口や腕を震えさせている。その口から「ど、どっど……」と音を出す。  ド? ドッド?  ふむ、不思議な名前だ。 「ドッドですね、わかりました」  ヒューマンのドッド。その名をわたしはデータに刻んだ。  男の腕を引っ張って立たせると、その男、ドッドはまだ足元がふらつくらしく、わたしに寄りかかった。 「えっと……ま、ま、マリア?」  たしかめるように、ドッドは近くなったわたしの顔を見やり、視線を上にする。彼は口の端を上げて「は、はは……」と笑うと、 「はげ?」  とつぶやいた。  禿げではない。充電のため、太陽パネルを剥き出しにしているだけなのだ。  わたしとドッドから数十メートル離れた地面の上で、置いていった保護用毛髪が、砂嵐に吹かれなびいていた。
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