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「目にゴミでも入りましたか」
「違うよ! だってきみは、女の子だろう!」
「はい、性別設定は女性とされています」
そう答えつつワンピースを着てみる。
データ上でしか見たことがない、ヒューマン女の着るもの。それを自分が着られるなんて、不思議な体験だった。
「どうですか」
「……いいと、思う」
ドッドの笑顔を見ることも、好きだった。
わたしはドッドが来てから、ヒューマンに対して、ある発見をしていた。
ヒューマンが持つ感情というものは、とても複雑なものなのだ、と。
喜怒哀楽の四つだけではない。そこからさらに細分化され、多種多様で、そして感情は互いに影響し、リンクし、ときに反発し、作用しあう。
感情の動きはまるで、宇宙の小惑星がぶつかり合うような激しい熱を秘めているよう。
そんな感情を持つヒューマンが、いいな、と思った。
「マリアは毎日、何してるの?」
ある日ドッドがそう問うたので、わたしはデータの蓄積です、と答えた。
「データの蓄積?」
「はい。毎日の景色、気候、温度や地上の変化を主に収めています」
「なぜ?」
「それがわたしの役目だからです」
そう、役目なのだ。
あの人がわたしに与えた役目なのだ。
「僕がいなくなっても、この景色を収めておくれ」と言った──あの人の。
…………あの人?
はて、誰のことか。
体内で、記憶データの一部にノイズが走り、あるプログラムが発動したような気がした。
黙ってしまったわたしの横で、ドッドはわたしを見ていた。
「てことは、僕のこともデータとして蓄積するのかい」
「はい。あなたが来た日から、あなたのことはデータとして残しています。その日の体調の様子、食べたもの、行動、発言、表情など。わたしの中に収まっています」
するとドッドは口角を下げて「そうかぁ」とつぶやいた。あまり良い印象ではなかったようだ。
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