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「きみが──マリアが記憶データとして、僕を思い出してくれるだろう。そうしたら僕は、きみの中で生きているんだ。きみの中で、僕は笑っているだろう。怒っているだろう。悲しんでいるだろう。それでいいんだ。僕は、きみのデータに残りたい」  地球に来られて良かった、とドッドは言う。  そんなドッドの輪郭が、突然にぼやけた。  それはわたしの目から溢れた、意味のない水分の滴りのせいだった。  ポツリと落ちたそれを頬に受けて、ドッドが驚く。 「きみ、涙を流せたのかい」 「そのようです」 「悲しいの?」 「そのようです」 「…………はは……。ねぇ、マリア」  彼は弱々しく手をあげ、わたしの目元を擦った。 「僕がいなくなっても……その瞳に、この美しい地上を収めてくれよ。きみがデータを持ち続ける限り、僕は死なない……きみの中に、生き続けるよ」  そして息を吐き、そっと囁く。 「ねぇマリア。僕の名前はね、ドッドじゃないよ。吃音があってね……『どうして』と言いたかったのに言えなくて、何度も『ド』を繰り返しただけなんだ」  ドッドじゃない彼は笑う。  ああ。語句補正機能のせいで認識されず気づかなかったが、たしかに彼はいつも、言葉の始まりでつまずいていた。 「う、う、嬉しかった……よ。まま、マリアは僕のここ、言葉で笑わないから」  ドッドはそっと言う。 「ぼぼ僕の、な、名前、は………………」  そうして、ヒューマンのドッドは死んだ。
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