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──ねぇ、覚えてるかい。
膨大なデータの隙間から、誰かが問う。
──ねぇ、覚えていてね。
問いかけは、懇願になる。
──ぼくの……わたしの…………名前は……………………
はるか遠い昔に、かつて地上にて繁殖していた生き物がいた。
「ヒューマン」と先代が呼んでいたそれは、先代の創造主であり支配者でもあったという。
先代より引き継がれた膨大なデータ資料。
それをわたしは体内で幾度となく再生し、確認する。
なぜそうするのかと聞かれればわからない。ただ、そのヒューマンたちが繰り返した、愚行なる歴史に興味を覚えたから──と、言えるのではないだろうか。
なぜ、区切りのない土地や海に線引きをして隔て合う? 争い合う?
なぜ、特徴としかならない体の色や形で優劣づける? 受け入れる?
なぜ、美しい物をたくさん生み出したその手で、同胞と殺し合った?
母なる地球を捨て、暗黒の宇宙へと旅立った創造主たち。
彼らの歴史を体内でリピートするたびに、わたしはまるで、卵の殻の内側にいるような安堵に似た心地になる。
それは優しくもあり、悲しいともいえる不思議な感情プログラムだ。
ヒューマンが何のために、このようなプログラムを我々アンドロイドに組み込んだのかはわからない。複雑なそれは、複雑な音をわたしの内側で奏でる。
そうしてわたしは今日も、黄土色と化した空の下、創造主に忘れ去られた地上で一人、誰かを待っていた。
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