5人が本棚に入れています
本棚に追加
/35ページ
世界地図中央にある、世界最小の大陸と一つの離島からなる自然豊かで風光明媚な島国。
ウルタール王国。その中央部分に位置するマグメル。北から南にかけて緩やかに傾斜した都市を囲う城壁の前に、千名を超える騎士達が集合していた。
彼らは腰に剣を、手には小銃を携えている。固く閉じられていた城門が開くと、重い雑踏が跳ね橋を揺らした。
壁の中には談笑する中年女性や、ボール遊びに興じる子供達がいた。
午後10時過ぎという時間帯を考えると、奇妙な光景だ。さらに不思議な事に、市内には明かりをつけた一軒もない。
彼らは騎士達の姿を見ると、比較的遠くにいた者は距離を取り、近くにいた者は素手で躍りかかった。
「構え―!!撃てっ!」
仰々しい号令の後、鋼弾の掃射が非武装の市民に襲い掛かる。
デニムパンツの青年は弾丸に身体を抉られる寸前、地を蹴り、射線の上を滑るように跳んで射手の首を2つ落とした。
直後に陣形が変わり、青年に小銃弾が雨霰のように降りかかるが、負傷が鈍い――傷つく端から再生しているのだ。
彼らは吸血鬼である。
此処マグメルは吸血鬼に乗っ取られ、市民全員が吸血鬼となっているのだ。
都市全体が外部から閉ざされていた為、発覚が遅れたが、つい最近事態が明らかになり、討伐隊が組織されたのだ。
彼らがやってきた南側とは逆の北側。
城壁の縁に尻を乗せた男が一人、闇に沈んだ街並みを眺めている。
麻のジャケットを羽織った、金髪の若い男。切れ長の目をした細面で鼻が高い。髪を短く刈り、痩せ型だが、しっかりと筋肉がついている。
彼は城壁内の状況を知ってか知らずか、豹のような笑みを浮かべたまま、城壁の縁から身を投げた。
3階建てのビルヂングを見下ろす高さから飛び降り、男――アレス=マクドウェルは猫のようにマグメルに侵入。
森を突っ切り、街路に入った彼を6名の男女が出迎えた。
「おい、人間だぞ?」
「討伐隊か?」
「けど――」
アレスは小さく息をついた。右手に音も無く、長柄の鎌――アンクーの鎌を出現させる。
「違うよ吸血鬼共。ケネスはどこだ?」
ケネスの一言で顔色が変わる。
「なぜ御主人様の名前を知っている?」
「同級だったんだよ、それでどこだ?」
吸血鬼は無言で迫る。
アレスも答えを期待していた訳ではなく、右手の鎌を横薙ぎに振るった。
一振りで3人の脳が両断され、残った3名は足踏みをする。
最初のコメントを投稿しよう!