現在-マグメルの夜-

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 世界地図中央にある、世界最小の大陸と一つの離島からなる自然豊かで風光明媚な島国。 ウルタール王国。その中央部分に位置するマグメル。北から南にかけて緩やかに傾斜した都市を囲う城壁の前に、千名を超える騎士達が集合していた。 彼らは腰に剣を、手には小銃を携えている。固く閉じられていた城門が開くと、重い雑踏が跳ね橋を揺らした。  壁の中には談笑する中年女性や、ボール遊びに興じる子供達がいた。 午後10時過ぎという時間帯を考えると、奇妙な光景だ。さらに不思議な事に、市内には明かりをつけた一軒もない。 彼らは騎士達の姿を見ると、比較的遠くにいた者は距離を取り、近くにいた者は素手で躍りかかった。 「構え―!!撃てっ!」  仰々しい号令の後、鋼弾の掃射が非武装の市民に襲い掛かる。 デニムパンツの青年は弾丸に身体を抉られる寸前、地を蹴り、射線の上を滑るように跳んで射手の首を2つ落とした。 直後に陣形が変わり、青年に小銃弾が雨霰のように降りかかるが、負傷が鈍い――傷つく端から再生しているのだ。  彼らは吸血鬼である。 此処マグメルは吸血鬼に乗っ取られ、市民全員が吸血鬼となっているのだ。 都市全体が外部から閉ざされていた為、発覚が遅れたが、つい最近事態が明らかになり、討伐隊が組織されたのだ。  彼らがやってきた南側とは逆の北側。 城壁の縁に尻を乗せた男が一人、闇に沈んだ街並みを眺めている。 麻のジャケットを羽織った、金髪の若い男。切れ長の目をした細面で鼻が高い。髪を短く刈り、痩せ型だが、しっかりと筋肉がついている。 彼は城壁内の状況を知ってか知らずか、豹のような笑みを浮かべたまま、城壁の縁から身を投げた。  3階建てのビルヂングを見下ろす高さから飛び降り、男――アレス=マクドウェルは猫のようにマグメルに侵入。 森を突っ切り、街路に入った彼を6名の男女が出迎えた。 「おい、人間だぞ?」 「討伐隊か?」 「けど――」  アレスは小さく息をついた。右手に音も無く、長柄の鎌――アンクーの鎌を出現させる。 「違うよ吸血鬼共。ケネスはどこだ?」  ケネスの一言で顔色が変わる。 「なぜ御主人様の名前を知っている?」 「同級だったんだよ、それでどこだ?」  吸血鬼は無言で迫る。 アレスも答えを期待していた訳ではなく、右手の鎌を横薙ぎに振るった。 一振りで3人の脳が両断され、残った3名は足踏みをする。
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