もめん

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 わかっている。選べばいい。好きなのは絹ごしなのだから絹ごしを選べばいい。簡単なことではないか。そうなんだけど、お得な3連の豆腐はサイズも一人暮らしに丁度いいし、絶対に買いではあるが賞味期限内に果たして食べきるのかという問題がある。  わかっている。食べればいい。当たり前のことではないか。調理法は無限に広がっている。しかし、その当たり前のことができないのが私、辛かんらというアラフィフ独身非正規雇用夢破れ人間なのだ。賞味期限をきらすのが体に染み付いているのだ。  ある日冷蔵庫の奥で賞味期限から3ヶ月たった3連ベーコンの1つを発見し、手に取ったときの虚無感を知っているだろうか。真空に近いパックだからイキイキとしているように見える。脂身も白いし、ツヤツヤしている。 「いけるんじゃね?」  そう錯覚する。いまどきの食品はおしげもなく防腐剤を注入しているだろうから、死にはしないんじゃないだろうか。  と思いながらも息を止めてフィルムを剥がし、中身と容器を分別して捨てている。  だれかのためにご飯など作らないから3連4連の食品は必ずと言っていいほど1つだけ取り残す。放って置かれて朽ち果てる。誰にも発見されず。さみしく賞味期限を終了する。     
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