一之瀬推莉は引き寄せる

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 ~~~~    一之瀬推莉。  彼女にこの学園で出会ったときは、その美しさに驚愕した。  どこからどう見ても瑕疵(かし)の見当たらないその美貌は、まるでその手の絵画から抜け出てきたかのようだった。  そして一之瀬さんの生い立ちを知ったとき、もう一回驚愕した。  彼女は、あの一之瀬正臣(まさおみ)の娘だったのだ。    一之瀬正臣と言えば、生涯で二百六十三の事件を解決したことからレジェンド認定されている名探偵だ。  ミステリー小説を好んで読む僕にとっても当然、彼はヒーローだった。    そんな偉大過ぎる父親を持つ娘となれば、身の程知らずと分かっていてもやっぱりお近づきになりたいと思うわけで――。  そして、一年で早速同じクラスになってチャンス到来と小躍りした僕。  でも僕の溢れ出る欲求は彼女による奇行によって阻まれた。  一之瀬さんの奇行、それは、 【いきなり血相を変えたかと思うと、時と場所を選ばず急にどこかに走っていく】    というものであり、そして戻ってきた時は大抵、制服や髪の毛を乱して汗だくだったりするのだ。  そんな眉を(ひそ)めるような奇行のせいで、彼女はその美貌もむなしく六月の今でもボッチ状態だった。   奇行もせずに笑顔を振りまいていれば、おそらく真逆の高校生活だろうに……。  一之瀬さんは一体、どんな笑みをその表情に乗せるのだろう。  僕はそれが気になったのだけど、やはり奇行の件もあって彼女から距離を置いていた。  でもやっぱりお近づきになりたいという気持ちは抑えきれなくて、そして九回目の奇行時から僕は一之瀬さんを尾行しようと決めた。  まずは、なぜそのような行動をするのか知るべきだと思ったのだ。  ――でも彼女の行動は思いのほか早くて、腹痛を理由にした先日までの尾行作戦は全て失敗に終わっていたのだった。  ~~~~ 「もう、食事くらいゆっくりさせてよっ!」  そして五日後の金曜日、待ちに待った一之瀬さんの奇行が始まった。  発生時間は昼食休憩。  ついさっきまで優雅にパンを食べていた彼女は、殺伐とした雰囲気を(まと)ったかと思うと廊下へと走り出す。  その変わりようはまるで別人のようだ。  よし今度こそ――と立ち上がった僕なのだけど、ここで痛恨のミスを犯す。  立ち上がった瞬間に机が揺れて弁当が落ちたのだ。
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