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(待て待て、だったら追いかけるべきだろ。追いかけてそこにいる男を一発ぶん殴って、一之瀬さんを救うのが男ってもんだっ!)
一瞬にして使命感に駆られた僕は、無限の勇気が湧いてくる。
開け放たれたドアを、一切の躊躇なく通り抜ける僕。
そして僕がそこで目撃したのは――、
「えっ!?」
一之瀬さんに乱暴している男なんかじゃなくて、“人の形をした霧のような何か”だった。
「有栖川君っ、そいつを捕まえてッ!!」
「えぇっ!?」
その、奇妙な存在を必死の形相で追いかけている一之瀬さんが、僕に向かってとんでもないことを言ってのける。
“あ、僕の名前覚えてくれていたんだ”という嬉しさがよぎるけど、眼前に迫りくる得体の知れない人型ミストの所為で、それはすぐに消え失せた。
「大丈夫、怖くないわっ。そいつを抱きしめて霧散させるのよッ!!」
(いや、めっちゃ怖いですけどっ!!)
でも僕は丁度、無限の勇気が湧いていたところなので、一之瀬さんの言う通りそいつを抱きしめる。
僕の横を通り過ぎようとしたところを思いっきり。
「うっはああぁっ!? 何こいつっ!? 霧かと思ったのになんかすごいムニムニするんだけどっ!?」
その感触に怖気を振るう僕は、思わず拘束を解いてしまった。
「やああああああああっ!!」
そんな僕の視界を横切るように、空中を飛んでくる一之瀬さん。
言い表すならば、空中ヘッドスライディングような状態で。
彼女は前に伸ばした手で僕が解放してしまった霧の化け物を捕まえると、これまた必死の形相で思いっきり抱きしめる。
というよりベアハッグ的な技を掛ける。
すると胴体の部分から千切れた霧人間は、やがて拡散するようにして消え失せた。
「はあはあ……今回のは大きかった、危なかった。……大好きな英語の授業を犠牲にしたんだから……はあはあ、逃がすわけないじゃない」
大の字になって寝転び、疲れ切った顔で荒い呼吸を繰り返す一之瀬さん。
その姿は、制服や髪の毛を乱して汗だくという状態だった。
(なんなんだよ、この状況ぉッ!!)
僕が心中で絶叫したのは言うまでもない。
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