一之瀬推莉は引き寄せる

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~~~~   『ヒダネ』。    それがあの霧のような化け物の正式名称だという。 『ヒダネ』は何日かに一回、学園にやってくるらしく、それを感知できる一之瀬さんはその『ヒダネ』が現れるたびに消去に向かっているという。  その『ヒダネ』というのはなんなのか――。  その疑問をぶつけたとき、プールサイドに座って水に足を入れている一之瀬さんはこう言ったんだ。 「この学園にミステリーを発現させようとしている厄介な存在よ。『ヒダネ』が、ある一か所に留まり時間が経つと、そこからミステリーが発生してしまうの。小さい『ヒダネ』だったら軽い日常系ミステリーで済むのだけど、さきみたいな人間大の『ヒダネ』だと殺人事件が起きる可能性だってあるわ。  それは例えば、童謡などの見立てによる連続殺人かもしれないし、怪人による大掛かりな密室殺人かもしれないし、或いは嵐の山荘のようにこの学園がなんらかの事象によりクローズドサークルになるかもしれない。だからそうならないために私は『ヒダネ』を火だねのまま消去してる。それが名探偵である私の役目だから」  突っ立っている僕の足場が崩れそうな、そんな感覚。  とんでもないことを聞いてしまって僕は声がでない。  すると彼女はそんな僕を置いていくようにして、先を続ける。 「名探偵っていうのはミステリーを引き寄せる。これはもう自明の理。事実、私の父さんも名探偵であるがゆえに数多のミステリーに直面して、そのミステリーに向き合わざるを得なかった」  確かに名探偵というのは、異常ともいえるほどにミステリーに遭遇する。  それは現実でも虚構でも同じだ。  理由なんていくら考えたって分からなくて、そういった運命なのだろうと誰もが思っている。 「でもそれは、父さんが『ヒダネ』の存在を知らなかったから。ううん、知りたくても知ることができなかった。そもそも父さんには『ヒダネ』の探知能力がなかったから。でも私にはある。だったらやることは一つでしょ」 「それが『ヒダネ』の消去。それは、その……これからもずっと一之瀬さんが消去するってことなのかな?」  ミステリーを生み出す『ヒダネ』と対峙する孤高の美しき女子高生――。  なんだか一本、現代ファンタジー小説が書けそうだ。
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