1人が本棚に入れています
本棚に追加
一之瀬推莉は引き寄せる
「なんでよりによって英語の時間なのっ!」
一之瀬さんはそう叫ぶと机を叩いて立ち上がる。
すると葛藤を表すように身を震わせたのち、走って教室を飛び出した。
――授業中であるにも関わらず。
最初こそざわついたけど、慣れていることもあって教師、そして『1―2』の生徒達は総じて“またか”という反応。
御多分に漏れず、僕も彼らと同じような反応をしていたのだけど、それは最初だけ。
僕は、“今日こそはッ”と手を上げた。
「す、すいませんっ。ちょっと腹痛なのでトイレ行ってきますっ」
僕は英語教師の了承を得ると、痛くもない腹を押さえて教室を出る。
そしてドアを閉めて、演技も止めて、さあ、今日こそは一之瀬さんがどこで何をしているのかこの目で目撃してやると意気込む。
(え? もういない!?)
……意気込んだのだけど、彼女の姿は右にも左にもなかった。
腹痛だからとゆっくり歩いて教室を出たのがいけなかったらしい。
(出遅れたかぁ。はぁ、やみくもに探してもこのマンモス学園じゃな……)
意気消沈した僕は、とぼとぼとトイレに向かう。
――これで〇勝六敗。
別に戦いじゃないけれど、僕としては負けとの認識だ。
「一之瀬さん、一体どこで何を……。あー、気になるっ!!」
僕は放出する爽快感を味わいながらトイレで叫んでいた。
最初のコメントを投稿しよう!