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額に黄金のサークレットをいただいた短剣使いの勇者は、端正な顔をゆがめる。確かにいきなり「あなた異世界へ飛ばされたんですよ」なんて言われてすんなり納得できないだろう。しかし今は納得してもらわなければ困る。
現実に提出書類には期限というものがある。その書類には勇者のサインが必要だ。
職業案内する以前に、まず異世界人には戸籍を取る必要がある。
勇者は金属製とおぼしき鎧を騒々しく鳴らしながらなぜか座っていたイスを勢いよくひっくり返した。
やっとイスに座らせたと思ったらまたこれだ。
私は眉のあたりがヒクヒクしないよう、必死に表情を取りつくろう。そうでもしないとすさまじく感じの悪いスタッフになりかねない。自分の不機嫌顔の迫力には自覚がある。人相が悪い、悪いと言われて早くも二十数年の玄人だ。
ただ本を借りられる場所というイメージが強い図書館。しかしその本質は地域の情報センターであることから、なんでも屋のような働きをすることがある。その結果、受け皿のなかった異世界人の職案まで業務内容にはいっているのだ。
勇者はそれまでの冒険の激しさを物語るようにところどころ破れたマントを翻し、流れるような動きで私に刃先を向けるとジリジリ壁に後ずさった。
そのものすごく真剣な顔に目眩がおそってくる。
面談が始まって何度この光景を見せられただろう。デジャブか、デジャブなのか。
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