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【至福、私立図書館朝の業務】
ダークブラウンの長いストレートヘアが朝日を受けなびくと、すらりと形のいい足がタイトスカートの中でピンヒールを従えて素早く交互する。
ヨーロッパ気取りのレンガ調の街並みに風を切るように歩く長身の女が通れば、大抵の通行人は道を開ける。
それを避けられていると取るか、私モーセっぽくない? 格好よくない? と取るかで言えば私は前者の思考回路。つまりまともな人間である。
外見的にはおおよそ可愛らしいタイプとは言いがたい私、飯田玉美は長い睫毛にかこまれた眼光鋭いつり目に違和感をかんじ数度まばたきをした。
僅かに眉間にしわが寄ればどこのヤンキーかと問いたくなる人相に通りかかった小学生が恐怖に目を潤ませる。しかし当の私は呑気に前髪が入ったのかなあ…とか考えていたわけで。
眉あたりでもたつく前髪をパサパサ散らして整えると私は街の景観によくなじんだレンガ造りの4階だてビルを見上げた。
深呼吸をして分厚いガラス戸についた象牙色の丸い取っ手に手をかける。
今日も不本意ながら、本と魔法と剣の就業…開始である。
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