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「おはようございます!」
私の高らかな挨拶に、少し鼻にかかった柔らかな中低音が答える。
「おはようございます飯田さん」
図書館の出入り口のすぐそばには貸し出し返却の受付カウンターがある。そのカウンターの向う側。
年期のいった木製イスに真っ白い麻のシャツを着た美形の男が腰掛けていた。
彼が中低音の発信源。色素の薄いブラウンの長髪をゆるくたばね、女性にも見まごうような儚さをかもす井村という男がこの図書館の館長である。新人図書館員に向けるその優しげな微笑みに、私も自然と頬をゆるませた。
「井村さん。今日もお早いんですね」
「うん。誰もいないうちにここで珈琲飲むの好きなんだよね」
井村は男にしては細い首をかしげ、湯気の立つマグカップを持ち上げてみせる。透き通るように白くて節だった細い指は濃紺色のマグによく映えた。私はつり目を猫のように見開くとにっこりと笑う。
「ああ。なんかわかります! 中学のときとか、誰よりも早く教室に行って本読むみたいなのですよね。あれなんか気分がいいんですよね」
「あーそうそうそんな感じ。ああ、それと毎朝ここで飲んでるの掃ちゃんには内緒ね。僕叱られちゃうから」
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