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「よかったです。 あ、この前言ってた新発売のプリンなんですけど…候江さんの分も買ってきちゃいました。今日一緒に食べませんか」
「さ、左様でっ!某もそのプリンは食べてみたいと思うておりました。今日のお昼が楽しみですね」
「昼買いにいけばいいかなって思ったんですけどお昼だともう売り切れてるんで。勝手にすみません」
「おたまさんっ!…なんと礼をしたらっ!! 」
候江は大げさに目を見開きカッと頬を染めた。
つづいてそわそわと両手を和服の袖口に入れようとしたが、残念ながら候江の今日の装いは襟首のつまったオフホワイトのシャツである。
その手は空中で行き場をなくし、結果、彼の胸の前で不似合いに乙女チックにくまれる。
「よかったね候江君。コーヒーありがとう」
可愛い生徒を見る教師のような表情で井村が言う。
「はい!いつでもお頼みください井村さん」
その穏やかな微笑みに、候江は力強く頷いてみせた。
候江は今日もボサボサしたひどいくせ毛を、前髪だけ妙にきっちりと丸く切りそろえた不思議ヘアスタイルをしている。
しかしその柔らかい物腰と、常に着用しているお花のステッチが可愛い桃色エプロンのせいで子どもや年寄りからは人気者だ。
2階受付カウンターに常駐する候江は図書館業務において、受付担当兼事務方。
ーーー表向きは。
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