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スガレはここに連れて来られた日に、一度だけ蟻塚を外から見たことがあった。浮遊する巨大な土塊の表面には無数の窓が空いていて、みすぼらしい泥団子のようだと思った。泥団子は数人の大人がめいっぱい腕を広げても周りきらない太さの鎖で、本国の地上と繋がれていた。
「よぉ、翅無し小僧! 朝早くからご苦労なこった」
「192番、アンタだって今は翅無しだろ? そろそろ働けよな。あとで徴収行くからな!」
「ちょっと坊や、その次はアタシの部屋寄って頂戴よ。良いことしたのよ」
「珍しいなオカ……762番。祈りの後で行くよ」
「アンタ今オカマって言いかけたでしょ!?」
「スガレや、キシズクの木に果実がついたんだ。アキツハ様に差し上げておくれ」
「ありがとー、32のじいちゃん」
「先日描き終えた裸婦の絵、十万マルガで売れたんです……芸術価値の分、償いに上乗せしてくれませんか……」
「相変わらずすげーな449番先生。裏ルートはダメだぞ、罪が増えるからさ。上乗せもできないけどね」
アキツハとスガレが牢獄内を歩けば、四方から声をかけられる。蟻塚で暮らす住人は千人近くいるが、免罪符売りの二人を除けば、全員が罪を犯して収容された罪人だった。
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