第1話「空中牢獄」

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 元は皆、本国の民と同じで背中に(はね)を持つ連中だ。逃げられないよう投獄される前に(はね)はもがれてしまう。取り戻すには、免罪符売りに罪の証を消してもらうしかない。刑期という法がなく、時間での償いが不可能なこの国の罪人が空中牢獄の外に出るには、『労働と人助け』で己の罪を清算するしかないのだ。  免罪符売り、と名乗ってはいるが実際には税の取立人のようなものだ。アキツハとスガレたちは、罰を消す対価に罪人から何かをもらうわけではない。  星空に似た輝きを放つ鉱石が埋め込まれた祈りの部屋で、二人は向かい合って膝をつき、毎朝の決まりである誓いの言葉を口にした。 「罪を憎んで人を憎まず、裁きは神の手中にあり」 「罪を憎んで人を憎まず、裁きは神の手中にあり」  アキツハの祈りを、スガレが繰り返す。 「わたしたちは断罪者にあらず、顔のない徴収者にすぎない」 「わたしたちは断罪者にあらず、顔のない徴収者にすぎない」 「わたしたちは償いを終えた罪人を(ゆる)さなければならない」 「わたしたちは、償いを終えた罪人を(ゆる)さなければならない……」 「スガレ、集中してください」 「申し訳ありません」  千回以上も繰り返してきた祈りの言葉が、最初は嫌でしかたがなかった。何故自分が、何の関係もない罪人を赦し、彼らの償いに責任を負わないといけない?   そう問うても、神は答えない。  生まれつき(はね)が無い。     
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