一章

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 国道を抜け新緑溢れる山道に入り、鬼無里へ向かいます。青々とした緑の隙間から幾重にも木漏れ日が輝き、まるで緑色の万華鏡を覗いている様でした。  そんな山道を15分ほど走ったでしょうか。紅葉の洞窟は思ったよりも近くにありました。 道の終わりに小さな崖があり、そこに沿うように人が一人通れるくらいの側道が洞窟まで伸びています。 朝の早い時間だったからか、辺りには人の気配はありません。私と兄はその洞窟に入る事にしました。  後日、観光案内の写真を見たら、紅葉の洞窟は普段入口に柵が立ててあり中には入れない様になっていました。 でも、私たちが行った時その柵は壊れており、破片らしきものが洞窟の中から外に残っているだけでした。柵は壊れてから大分経つらしく周囲の風景に溶け込んでいたため、私と兄は気付かぬうちに入ってはいけない場所に入ってしまったのです。  洞窟の中はひんやりと涼しく、大人が10人ほど座れる位の小さな空間でした。しかし、それを加味しても空気が違いすぎる。水中を泳いでいるような、重く、圧迫されるような静けさで、私も兄も口数が減りました。何か話そうとしても舌が喉に張り付いてしまっていました。 「ひとまず写真を撮ろうか」     
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