一章

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そして早く出よう・・・とは口に出さずとも伝わってきます。何枚か写真を撮り洞窟を出ました。恐ろしくなったので、出る時は二人で深く礼をしました。 後日、撮った写真を確認した所、オーブと呼ばれる発光現象がいくつも映っていました。  帰り道は来た時とは全く違いました。道は同じなのです。緑も、木漏れ日の光も。でも、私は血の気が引いてしまい震えが止まりません。なぜなら視界の端々に黒い獣が見え隠れするからです。  それはしっかり見ようとするとなぜか見えなくなり、半眼で焦点を合わせないようにするとはっきりみえる、おかしなモノでした。それは山道の向こうにいるような、私の背後に居るような、奇妙な存在感です。だたひとつはっきりしているのは、静かな、大きな目でじっと私を見ている事でした。  それは山道を抜け、近くの寺に祀られている紅葉の塚を御参りするまで続きました。  後日そのことを兄に話しても、兄はそんなもの見ていないそうでした。 あれが私の勘違いだったのかは、今はもう分かりません。ですが、あの時私を見ていたものの静かな、大きな、値踏みするような目だけは、いつまでたっても忘れられません。
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