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アイツが現れ、いつの間にか俺は閉所に閉じ込められ動揺していたことなど忘れていた。空中をちょこまか動くアイツに気を取られているうちに、気づけば3時間が経過していたのだ。
閉所恐怖症を克服――とまでもはいかなくても、俺はエレベーターという空間に対してはもう恐怖感を持たないだろう。むしろ、エレベーターに乗るたびにアイツのことを思い出してしまうに違いない。
「それ、もらえますか?」
「えっ、これですか……?」
「はい」
係員はティッシュにくるまれビニール袋に収められたアイツの亡骸を俺に渡してくれた。アイツのことは別に好きじゃないけれど、ともにこの3時間を乗り切ったヤツをそのままゴミ箱に放り込まれるのはなんだかやるせなかった。
家に帰ると、俺は庭の土を掘ってアイツを埋めた。
「あらお父さん、何やってるの?」
玄関から妻の声がする。
「うーんとな、同士の弔い、かな」
「なあに、それ」
「ん、秘密」
数週間後、アイツの墓の上には三センチくらいの小さな花が一輪咲いた。
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