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僕もこの会の奇妙なルールに則り、再びマスクをつけて伊達眼鏡をかける。
「先に出るから」
そういうことになっている。
なぜなら、新入りの僕は部屋の鍵を預けてもらえないからだ。
「俺、バイトだからこっちへ」
真坂がバイトで忙しいことは、「倶楽部七拾年」に入ってから知った。
水臭いとは思わない。
プライバシーに余り触れなくて済むのは、僕としても気が楽だ。
午後五時前だというのに、もうすっかり暗くなっている。
蛍光灯の切れかかった、古い鉄製の階段を下りる。
これが「倶楽部七拾年」集会日の放課後スケジュールだった。
自宅は学校を挟んでアパートとは反対の方角にあるので、僕はもと来た道を帰らなくてはならない。
別に苦にはならなかった。
むしろ、気持ちは舞い上がっている。
それはきっと、道草食って触れた70年代のおかげだったろう。
地味で野暮ったいけど、心のどこかにぽっかりと穴が開いたようにすがすがしい70年代の。
学校までの道筋では、コンビニや書店、スーパーが立ち並ぶ明るい住宅街で凪原あきらとすれ違うこともあった。
もちろん、僕など完全無視だ。
受験意識の高い生徒のために放課後は特別講習が組まれているから、それに出ていたのかもしれない。
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