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なぜなら、それがAVの場合だってある。客にとっては死活問題となるプライバシーだ。
ところが凪原は、わざわざ作品名を口にして返したのだった。
僕が探している、巻の抜けた特撮SFの名前を。
凪原はDVDを返すと、カウンターから立ち去った。
棚の後ろで縮こまって彼女をやりすごしながら、僕は考えた。
……さて、店員に声をかけるや、かけざるや。
戻ってきたDVDを店員がすぐに出してくれればいいのだが、それは必ずしも期待できない。
だからといって、いつまでも待っているのはバカバカしかった。
それならば、直接店員に声をかければいいのだが、そこまでやるのは何だか図々しいようで、気が引けた。
たかがDVDくらいのことでくよくよ悩んでいると、「よっ!」と僕の肩を叩く者があった。
真坂くらいしかやらないことだったが、声は女性のものだった。
ふいと横を見れば、凪原である。
どうして?
なんで僕なんかに?
もうDVDなんかどうでもよくなって店の外へ駆け出すと、凪原が追ってきた。
肩をぐっとつかんで引き寄せられる。
「逃げなくてもいいじゃない、秋月君」
女子に名前を呼ばれたのも初めてだ。
じたばたしたが、意外に力が強い。
手を強引に引きはがすわけにもいかないので、観念した。
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