昭和にハマったクールビューティ

2/3
2人が本棚に入れています
本棚に追加
/71ページ
 だいたいヒーローといえば、「弱きを助け、強きを挫く」のが相場だが、このドラマはちょっと違った。  弱いものがいじめられている現場に出くわしても、助けない。  この一言を残して去っていくだけだ。  だが、残された者は、見守られていると信じて猛然と立ち上がり、窮地を脱するのだった。  それでも、巨大な暴力には敵わない。  個人の力ではどうすることもできなくなったときにこそ、この男は一陣の風と共にやってくる。  なぜ僕がこんな古い時代劇を知っているかというと、毎日のように再放送を見ていたからだ。  小学生の頃、帰りの会が終わっても道草食って遊ぶ相手はいなかった。  まっすぐ帰宅して、そのままテレビを見ていると、この番組が始まる。  終わるころにはも、町の広報無線で「焚き火」(作詞 巽聖歌 作曲 渡辺茂)が流れ、「暗くなるから子どもは帰れ」と促すメッセージが入るのだった。  だが、これは友達のいなかった僕だから知っているのだ。  どう考えても、彼女はそのタイプではない。  やがて昼休みの終わりを告げる午後の予鈴が鳴って、次の時間の教科担当がやってきた。  凪原は歌いながら席に戻る。  70年代グラムロックのリズムだった。     
/71ページ

最初のコメントを投稿しよう!