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<第三章> 転生先選び
「いっそ、蟻はどうだ。他の動物に踏み潰されぬよう生き残るのは大変だが、毎日コツコツと生きる人生は、なかなか面白いぞ」
蟻の王の勧めに、しかし蟻の生活というものが浮かんでこない。唯一浮かんでくる光景と言えば、弱った昆虫を巣に運ぶ姿だった。
僕は実は、昆虫が苦手だ。特に芋虫のような、うねうねとした造形はゾッとする。それを主食とする事は無理だと思ったので、丁重にお断りをした。
「そうか、残念だ。貴殿なら良い蟻になると思うのだがな」
良い蟻というのはどんな蟻なのだろう、と思いながら、次の候補を考える。
「ううん、じゃあ、猫とか」
僕の頭の中に、フワフワとした、可愛らしい生き物が浮かぶ。猫は好きだ。
「猫か。あれはなかなか良いな。バッタやトカゲの王には評判が悪いが。
では猫の王に一つ、進言してみよう」
バッタ、トカゲと聞いて、それらを捕らえて食べる自分の姿を想像した。
「あ、ちょっと待って。僕は出来れば、野良猫より飼い猫になりたい」
裕福な家庭で、良い餌を貰って、毎日ブラッシングをして貰って、陽だまりで寝たい。
だが蟻の王は、にべもなく無理だと言った。
「転生後の運命は、自分で切り開かねばならない。またどのような個体に生まれつくかは、運だ」
「…ですよね」
そんな訳で、僕は再考した。
「じゃあ、鳥はどうだろう」
空を羽ばたく鳥。誰もが一度は憧れる筈だ。餌はやはり、昆虫を食べなければいけないかもしれないが、木の実を食べるという選択肢もある。
「鳥か。あれは最も天に近い生き物として、人気が高い。鳥は生前、昆虫を食べるという原罪を背負っている。その為鳥の王は、昆虫界に貸しがあるのだが…それを踏まえても、人間から鳥の転生は、難しいかもしれないな」
ああ、と蟻の王は言って、
「蝶はどうだ。鳥ほどではないが、蝶も天に近い生き物として人気だ。我も昆虫界のほうが、顔が利く」
空を舞い、花の蜜を吸う、美しい蝶を思い浮かべた。なるほど、良いかもしれない。
しかし考えてみたら、蝶の原形は芋虫ではないか。却下だ。
「すみません…辞退します」
「そうか? なかなか遠慮深いの」
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