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その日は酷く暑かったと記憶している。
都市部のなかで、比較的緑が多いこの地域でも猛暑日となり、気象庁から高温注意報が発令されていた。
その日僕は、近所の商店街まで出掛けていた。
ここの商店街は、毎年夏になると抽選会を行うのだが、その抽選券が9回分あったからだ。
どうせ当たらないのだから、無駄にしてしまっても良かったのだが、風が強く、案外外の方が涼しいのではないかと予想し、外出を決めた。
しかし予想に反して、吹き抜ける風は湿気を帯びていて、じとっとかいた汗は少しも蒸発してくれない。
目的の抽選会は、スナック菓子が一個当たっただけで、あとは参加賞のティッシュだ。
僕は、家でダラダラしていれば良かった、と少し後悔していた。
しかし、本当の後悔はここから始まる。
僕はその日、殺されてしまった。
木陰を求めて公園の中を歩いていたところ、突然ナイフを持った男が目の前に現れたのだ。
暑さで呆けていた頭はよく回らず、あっと気が付いた時には、腹部に痛みと熱さを感じた。
その次に感じたのは自分が地面に倒れた事、土の香りと冷たさ、そして遠くで女性の悲鳴。
暗くなっていく視界のなか最後に見た光景は、地面に染み込みながらも広がっていく赤い液体と、それを避けるように動き回る蟻。
そこでようやく、自分が襲われた事を理解し、恐らく助からないだろう事を悟った。
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