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<第四章> 蟻の王
ハッと目覚めると、そこは白い部屋だった。清潔な壁、カーテン、ベッド。規則的な音を出す機械。病院だ。
僕は、助かったのか。
しかし、凄い夢だったな。人工呼吸器のマスクの下で、クスッと笑った。
程なくして看護師が来て、僕の手術を担当した医師も説明に現れた。
「重体でしたが、現場に居合わせた通行人が直ぐ通報してくれてね。なんとか、救命措置が間に合いました」
良かったね、と医師が笑みを浮かべて言う。
僕は御礼を言うと、気を失う寸前に聞いた女性の叫び声を思い出した。彼女が通報してくれたのだろうか。
僕の身の回りを世話してくれる、担当の看護師は気さくな人で、一週間程の入院のうちに、冗談などを言うようになった。
点滴の替えを持って来た看護師に、いつもの世間話の流れで、自分の見た夢の話をした。
「僕、寝てる間に面白い夢を見たんですよ」
「へえ、どんな?」
看護師は手際よく、作業を進めていく。
「うん。それが、蟻の王様が出てくるんです。それで僕は蟻の王国で、」
ふと、看護師の手が止まったのに気付いた。
「どうしました?」
そこまで変な事を言ったのだろうか。夢だと前置きをしたのだから、突拍子も無い事を言ってもおかしくない筈だ。
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