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大学に入ったら、テニスをやろうと思っていた。
本当にただ何となくだ。敢えて言うなら、大学生がテニスラケットをもって歩く姿が子ども心に恰好良かったから、かも知れない。
近所のおにいさんは有名な私立大学のテニスサークルに所属していたらしく、いつもにこにこと楽しそうにしていたと記憶している。
――自分も、大人になったらあんな風になりたい。
子ども心にそう思ったとしても、不思議は無いであろう。小さな子どもの世界に顔を出してくる大人のおにいさんは、本当に恰好良かったのだから。
「へーえ、なるほどねぇ」
大学には無事現役で合格した後、選んで入部したテニスサークルはどちらかというとまったりした雰囲気の場所だった。でも、ナンパやコンパに明け暮れるでもなく、テニスとけだるげな会話で時間を潰すような場所だ。
今僕の目の前にいるのは、同期で入部したS。
凄く面白い奴だが、このサークルを選んだ理由はなにかあるらしく、しかし僕には黙ったままだ。
『知らないほうがいいと思うよ』
以前そんなことを言っていたっけ。
けれど、なんでそんなにかたくなに黙っているのだろう?
――それから数週間後。
僕はたまたまサークルの歴史を垣間見て、唖然とした。
このサークルは廃部寸前になったことがある、とは聞いていたけれど――それがまさか、部内のトラブルでおきた恋愛のもつれによる刃傷沙汰、だったなんて。
しかも、被害者はSの血縁者……らしい。
敵討ち――? そう考えて、いやまさかと思う。未成年の犯行だったことから、被害者も加害者も公にされていない。
そんなあやふやな情報では動けるわけもないだろうに。
更に数日がたって、Sがやけに晴れやかな顔で僕に言った。
あのサークルも、もう終りだねぇ、と。
部長が、副部長を孕ませて、姿をくらましたのだ。
それが偶然か必然か、僕には判らない。ただ、因果応報という単語が、なぜだか頭をよぎったのは、間違いなかった。
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