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放課後になると、いつも複雑な気分になる。
最近、特にそうだ。
授業が終わった束の間の時間。私は親友の内田千花(ちか)と並ぶように立って、教室から窓の外を眺めていた。
灰色に濁った雲が、ところどころ契り絵のように空のキャンパスに貼り付けられている。そんな光景に「ふぅ」と私は短く息を吐き出した。
───まるで、真っ青に晴れきれない今の自分の心に似ているな、と思いながら。
「朝は雲っていたけど、雨は降ってないし大丈夫そうじゃん。七海(ななみ)」
「……だね」
「だね、って。他人事みたいに言ってどうすんの」
千花は、私よりも身長が二センチほど低く、ふわりと長めの髪に、どことなくアニメちっくな声色からか、見た目はほんわかしているように見える。
けれど、ぼんやりしがちな私と違い、口調からして案外しっかり者だ。気遣いは元より洞察力も、なかなか鋭かった。
そんな千花が、やれやれというように今日も私の顔を覗き込む。
「もし部活が雨で中止なったら、三浦くんと話せないでしょ」
それでも七海は平気なの? と、千花の表情は私に訴えていた。
その顔にどう応えようかと迷っていたところへ、こうして私の気分を複雑にする元凶の“彼”の声が、クラスメイトのほとんど残っていない教室へ響いた。
「おい、マネージャー部室へ行くぞ」と。
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