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(そうか・・・、これは夢かもしれない。
起きたら、全部元通り・・・・・、そうにちがいない・・・・)
そんなことを考えながら、私はまどろみの中に意識を沈めた。
次に目が覚めたのは、兄の声でだった。
「沙羅っ、沙羅っ、起きろよっ!」
今にも泣きそうな・・・そんな兄の声を聞いたのは一体いつ以来だろう。
ゆっくり目を開けると、真剣な顔の兄がそこにいた。
「ほんとだっ!
本当に起きてくれたっ!」
兄は私の手を握って、泣いていた。
それでも兄が少しでも力を抜けば、私の手はだらんと落ちる。
「なぁ、沙羅っ、いつもみたいに憎まれ口聞いてみろよっ。
ほらっ、言えるだろ?」
(お兄ちゃん、泣いた顔・・・・ぶさいから・・・・)
そう笑って言ってやりたいのに、やはり私の体の何ひとつ動いてはくれなかった。
後ろで声を殺すようにして泣く父。
兄は私にすがって泣いていた。
母は・・・・よほど辛いのだろう・・・・廊下から母の泣く声が聞こえた。
それからの私の毎日は、寝ているか起きているか。
ただ、それだけだった。
起きていても、無機質な病室の天井を眺めているより他にすることはない。
だから私は目を閉じた。
夢の中でなら、私は今まで通りだったから。
日がな一日を、ほとんど寝て過ごす。
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