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我慢強いあたしにだってやっぱり──限界はある。
やがて怒りが沸点にまで達し、剥き出しになった感情は、一人の男の死で決着が着いた。
ユウ君の借りるアパートの一室。恨みの数だけ体を刺された男の死体と、血で赤黒く濡れた包丁を握り、全身に返り血をたっぷりと浴びた女。
──あたしは、いつだって尽くしてきた。
女は眉間と鼻根にシワをつくり獣じみた顔で男を見下ろす。
いつからだろう、好きになった人には誰よりも幸せになって欲しいと願うようになったのは──、そしてその人の幸せがあたしにとっての幸福なのだと、何一つ疑うことなく信じてきた。
ユウ君がお金に困れば出来るだけ工面したし、他所に女がいると知っていても、最後には必ずあたしの処に帰ってきてくれると、ただ信じて待った。お酒に酔いあたしを物のように、乱暴に抱くことも幾度となくあった。
ユウ君の先輩、コージとかいったっけ? その筋の男にお金を借りてはギャンブルで溶かす。
闇金なみの利息で首が回らず、しょっちゅう顔を腫らして帰ってきていた。
傷の手当てをしていると、手際が悪い、しみるだのと何かと難癖つけて、八つ当たりで私を殴る。
終いには風俗で働いて金を作れだなんて言いだす始末。──本当に駄目な男。
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