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田中は高卒同期の中で抜きん出て成績が良く、先輩社員からも一目置かれるような自慢の同僚だった。それでいて気取ったようなところもないので、女性にモテるのは当たり前。男性からも慕われるような、人気者を絵に描いたような人間だ。
「お疲れ。田中、顔赤すぎ」
すみれが指を差して田中をからかう。
情けなく眉を下げて、
「弱いんだよ、酒」
と、田中は笑った。
「なあなあ」隣に座ってきた田中が、小春に耳打ちをする。「今年の新入社員、かわいい子多いよな」
着眼点が違えど、やはり今日の話題は新入社員のことで持ちきりだ。
「よくよく見るとそうだね。なんか、みんな大人っぽい……」
「お前が子供っぽいんだろ」
「う、うるさいなあ。田中だって、童顔のくせに」
「子供っぽいのと若く見えるのとでは、話が違うんだよ」
田中はいつも、こんなふうに小春にちょっかいを出す。小春のこと好きなんじゃないの? と、いつだったかすみれが田中をからかったことがあったが、こんな色気のない女には興味がない、と一蹴されてしまった。
「やっぱり私、女としての魅力に欠けてるのかな……」
一人言のつもりが、一人言になりきれてなかった。田中とすみれが、耳ざとくそれを聞きつけた。
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