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「そういえば、あれはどうするんですか?」
「あれ? ――ああ」
小春の指差した方を見て、山田は口の中で呻いた。
まな板の上で置いてけぼりを食らっている野菜たちが、寂しそうに山田を見つめていた。
「小春ちゃん、あれ使える?」
「くれるんですか?」
「だって、俺もういらないし」
片付けを中断して、山田はシンクへ向かった。
本日の浴衣は、背中に風神雷神が描かれている代物だった。いつも思うけど、一体どこで売っているのだろう。
シンク下の戸棚からボウルを取り出して、大きな手で、わしっと野菜を掴むと、ボウルへ放っていく。野菜を掴むたびに、手の甲の骨が浮いたり沈んだりした。
小春は、自分の手を見た。全然違う。大きさも、形も。
そういえばさっき、あの手を握ったんだったな。思い返すと、なんだか手の平がむず痒くなった。
「……山田さん」
「ん?」
「もっと、しっかりしてください」
「……は?」
まさかこんなタイミングで、隣人の小娘に、しっかりしろ、などと言われるとは思わなかったのだろう。振り向いた山田はきょとんとしていた。
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